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【感想】『罪の余白』

読了:芦沢央『罪の余白』角川文庫、2015年。

罪の余白 (角川文庫)

罪の余白 (角川文庫)

先日に引き続き、芦沢央氏の作品を読みました。こちらがデビュー作のようです。

私は特に小説を購入する際、大抵はタイトルを見て買うことにしているので作者のデビュー作だとか◯◯賞を獲った作品だとかを気にせずに購入しています。それで「あ、この作者の別の作品も読んでみたい」と思えば作者の名前で購入するようになりますし、そうでなければそれっきりなんてこともあります。さらにその中から今でも読み続けている作者もいれば、一時的に何作品かを読んでそれっきりになってしまう作者もいます。おっと、この辺の話は別の機会に。


本作品では主な登場人物は5人で、それぞれの視点で順番に物語が進んでいきます。

その中の1人である安藤加奈は、これまた主要人物の2人である木場咲、新海真帆に虐められており、ある日教室のベランダから転落死してしまう。世間的には自殺ということになり、父親である安藤聡も失意の底にあったが、ある時木場咲が自分たちが虐めていたという証拠がないか確認するために安藤聡の元を訪ねると、パソコンの中には虐められていたことが綴られている日記が……そこから物語は動き出します。


読んでいる間も、読後も「あぁ…救いがないなぁ…」という感じでした。

特に安藤聡は、加奈が生まれて少し経つと妻に先立たれ、さらには娘まで亡くしてしまうという……。想像したくはないけど、私も「父親」という立場では聡と同じなのでどうしても頭を掠めてしまいました。
なんかもう最初の頃はずっと胸を握りつぶされているかのような気持ちで読んでいました。

しかし、木場咲もなかなかに救いのない人間に思えました。
彼女は容姿端麗で、自分自身もそれを分かっているため芸能界を目指しているのですが、ざっくり言うと自分の立場を守るために必死、という感じですかね。直接手を下していないとはいえ、加奈を虐めていた事実が明るみになると芸能界に入ることは無理、入れたとしても一生言われ続ける黒歴史になってしまうと考えており、逆に言うと、加奈の死はその程度の認識です。

さらに、咲は安藤聡が虐めていた2人に対して復讐するために仕掛けた罠を利用して新海真帆を犠牲にしようとしましたが、これも自分が助かるための行動です。

「おまえは……こいつも切り捨てることにしたんだな」

その行動を知った際に聡が発した言葉です。どのような経緯だったかはぜひ読んでいただきたいのですが、私にはこの一言が非常に辛く、そして重い言葉でした。

さらに、その咲と一緒に行動していた新海真帆も、彼女も彼女で結局救われなかったなぁ……と。

高校で明るい世界を見せてくれた咲の信者的な立ち位置だったが故に、同じく咲と仲良くしていた加奈が気に食わなかったようです。まぁ、こういう三角関係はよくあることだとは思います。だからと言って虐めに走ることは絶対にあってはならないことですが、その点は小説なのでとりあえず置いておきます。そのようにとにかく一にも二にも咲!なのですが、結局最後にはその咲からも切り捨てられそうになりました。


ところで、本筋とは全然関係ないのですが、大学・大学院と研究していたこともあり、やはり「教育論」的な部分に目が行ってしまいまして、本作でもちょっと気になった部分がありました。

 真帆は学校を休むのを嫌がったが、だからと言って学校が好きだったわけではない。むしろ本当は嫌いだった。常に空気を読み続けなければならない空間も、グループに属さなければならず、さらにその中でも一人が席を外すとみんなでその子の悪口を言い合うような人間関係も。
 それでも休もうとしなかったのは、一種の強迫観念からだ。
 自分が休んでいる間に何か重大な出来事が起こるのではないか。それに取り残されたら、その後ずっとその話に乗り遅れ、挽回することはできないのではないか。そうした根拠のない不安が、真帆を学校へと向かわせる。

「学校を休むこと」って子供にとってはある意味イベントみたいなものですよね。きっと真帆とは同じような考えの子って結構いるんじゃないかなーと思います。逆に、休むことでちょっとした特別感を味わってワクワクする子もいると思います。

真帆の場合は自分で「強迫観念」と言っているように、自分が学校を休んでいる間に咲が他の子と仲良くしたらどうしようとか、重要な出来事があってそれに乗り遅れたらどうしようとか、悪口言われていたらどうしよう…みたいな不安があるから休みたくないようです。
まぁ、でも、この後にも書かれていますが、実際にはそんなに重要なことって起きないんですよね。

こういう「学校を休むこと」への意識と所謂「スクールカースト」との関係性については興味があります。どなたか分析されていたりするのでしょうか。


個人的には救いがないとしか思えない展開でしたが、物語の世界には引き込まれるし、それぞれの心情も生々しく伝わってきて読み応えのある作品でした。

今回はこんな感じです。