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【感想】『いつかの人質』

読了:芦沢央『いつかの人質』角川文庫、2018年。

いつかの人質 (角川文庫)

いつかの人質 (角川文庫)


現在、立て続けに芦沢央氏の作品を読んでいて、こちらで3作品目です。

宮下愛子は幼いころ、ショッピングモールで母親が目を離したわずかなすきに連れ去られる。それは偶発的に起きた事件だったが、両親の元に戻ってきた愛子は失明していた。12年後、彼女は再び何者かによって誘拐される。一体誰が? 何の目的で? 一方、人気漫画家の江間礼遠は突然失踪した妻、優奈の行方を必死に探していた。優奈は12年前に起きた事件の加害者の娘だった。長い歳月を経て再び起きた、「被害者」と「加害者」の事件。偶然か、それとも二度目の誘拐に優奈は関わっているのか。急展開する圧巻のラスト35P! 文庫化に当たり、単行本から改稿されたシーンも。大注目作家のサスペンス・ミステリー。

(内容紹介より引用)

すいません、あらすじを書くのが苦手なので内容紹介をそのまま持ってきました。


「宮下愛子の誘拐」と「江間優奈の失踪」という2つの事件が並行して進み、誘拐の方は主に愛子自身と愛子の父親の視点から、失踪の方は主に江間礼遠の視点から語られています。

もうすでに芦沢央氏の作品を2つ読んでいたので、なんとなーく「あぁ、この展開は最後にひっくり返すためのミスリードなんだろうなぁ」って気持ちで読んでいたので、「急展開する圧巻のラスト」に驚くことはありませんでした。芦沢央氏の作風を全く知らずに読んでいたら「あー、こう来たかー」ってなるのかもしれません。

んー、立て続けに同じ作者の作品を読んでしまったせいか、先を読んでしまっていてあまり作品の中に没入できなかった気がします。とりわけミステリー作品だからというのもあるかもしれません。いや、これは完全に私が悪いのですが。


ところで、個人的に「ほー!」と思った箇所がありました。

刑事の千田武彦という人物の視点で物語が進んでいる際、江間優奈を捜すために聞き取り調査をする場面があるのですが、江間優奈が偽名を使ってホストクラブに出入りしていたという情報を受けた千田はこんなことを思います。

 人は咄嗟には上手く偽名を名乗れない。それは、千田が十五年以上刑事をやってきて持っている実感だった。職業や年齢、出身地についてはさらりと噓をつけても、名前となると一瞬思考が固まってしまうものらしい。それはおそらく、名前というものはアイデンティティの核であるからだろう。名前を訊かれてまず浮かぶのは本名で、それを打ち消してしまえば解答用紙が真っ白になってしまう。そこで次に浮かんでくるのは知り合いの名前や本名のもじりか目についたものからの連想だ。
 だから咄嗟についた偽名には本人の素性をうかがわせるものが存外に多い。たとえば田中氏が中田だと名乗っていたり、母親の旧姓を口にしていたり、親しい友人の名前をそのまま使っていたり、ということだ。

なるほどなー、と。
でも確かに、年齢とか職業は咄嗟に嘘がつけそうだけど、名前は事前に準備しておかないとその場では詰まりそう…。別に自分がそんな状況になることはないと思いますが。
名前って人間にとって一番最初に貰えるプレゼントみたいなもので、その名でずっと呼ばれてきているわけだから、多分どんなものよりも愛着が湧くんだと思います。もちろん自分の名前が嫌で嫌でしょうがないっていう人もいるだろうけど。


なんかいっつも本筋と関係のない何気なーい部分が気になってしまうのですが、なにはともあれ、本作は芦沢氏の作品から一度離れた上で読むといいかもしれません。おそらく良くも悪くも芦沢氏らしい内容なので、連続で芦沢氏の作品を読んでいると先が見えてしまうと思います。


今回はこんな感じです。