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【感想】『武器になる哲学 人生を生き抜くための哲学・思想のキーコンセプト50』

読了:山口周『武器になる哲学 人生を生き抜くための哲学・思想のキーコンセプト50』角川書店、2018年。


 Amazonの読み放題でおすすめに表示されていてちょっと興味を持ったので読んでみました。一応ビジネスパーソン向けということで通常の哲学入門書ほど堅苦しくはないだろうとは思っていましたが、それでも合わなきゃ読むのやめればいいやーくらいの気持ちだったんですよね、読み放題のいいところってこういう取捨選択がしやすいことだと思っています。


 本書の構成としては哲学の歴史やピンポイントで哲学者を取り上げて語るというものではなく、「使用用途別」に構成されていて、この哲学はこんな事象を考えるときに有効なんじゃないか?ということに焦点を当てて書かれています。
 そしてビジネスパーソン向けである以上、仕事をする場面や組織を考える場面のように比較的想像しやすい場面と結び付けられているため、非常に読みやすかったと思います。ただし、その分、各哲学の概要をさらに噛み砕いて分かりやすくしているので、必ずしもその哲学の深い部分まで知ることはできないかもしれません。

 そもそもビジネスパーソンがなぜ哲学を学ぶ必要があるのかという点について、筆者はこう述べています。

 哲学を学ぶことの最大の効用は、「いま、目の前で何が起きているのか」を深く洞察するためのヒントを数多く手に入れることができるということです。そして、この「いま、目の前で何が起きているのか」という問いは、言うまでもなく、多くの経営者や社会運動家が向き合わなければならない、最重要の問いでもあります。つまり、哲学者の残したキーコンセプトを学ぶことで、この「いま、何が起きているのか」という問いに対して答えを出すための、大きな洞察を得ることができる、ということです。


 「いま、目の前で何が起きているのか」をどう捉えるかってことは、ビジネスパーソンに限らず大切なことだとは思うんですけど、ただ単に事実として受け取るだけだとそれで終わってしまいます。
 「どういう経緯で起こったのか」「今後どう影響していくのか」「この出来事に対して自分はどう思うか」などなど、考えようと思えばいくらでも考えを巡らすことはできます。もちろん全ての事象にそんなに事細かにツッコんでいく時間はありませんが。


 では、世の中を捉えていく上で哲学者の何を参考にすればいいかという点について、筆者は「プロセス」からの学びが大切だと述べています。

 本書では、哲学には「What」と「How」というと問いの種類と「プロセス」と「アウトプット」という学びの種類があると整理されています。

 「Whatの問い」は「世界はどのように成り立っているか」という問いですが、特に古代ギリシアの哲学者に当てはまり、そこで出された解答(=アウトプット)は現代の人から見ると「え、当たり前でしょ?」みたいなことが多く、それが哲学を学ぼうとする人を挫折の道へ進めてしまうそうです。だから、それよりもなぜそういう考えに至ったのかという「プロセス」を学ぶことが重要だということです。

 アナクシマンドロスが最終的に出した「大地は何物にも支えられていない、宙に浮いている」という結論は、現在の私たちにとって陳腐以外の何物でもない。つまり、先ほどの枠組みで言えば「アウトプットからの学び」はないということになります。
 一方で、アナクシマンドロスが示した知的態度や思考のプロセス、つまり当時支配的だった「大地は水によって支えられている」という定説を鵜吞みにせず、「大地が水によって支えられているのだとすれば、その水は何によって支えられているのだろう」という論点を立て、粘り強く思考を掘っていくような態度とプロセスは、現在の私たちにとっても大いに刺激になります。


 
 私もこの「プロセス」を学ぶことって大切だよなぁと思っていて、(本書でも触れられていましたが)そもそも哲学には「絶対的なもの」は存在しないわけで、Aという考えが出てきたら、いやいやBが真理でしょ!って反論が生まれ、何言ってんのCでまとめりゃいーじゃんって統合的なものが確立され、そしてそれがまた否定なり補完なりされていくものであると思っています。

 とすると、「アウトプット」だけを追いかけていくと場合によっては水掛け論になっているようなものもあり、「何でこの人たちはこんなことで揉めてんだろう」って半ば呆れてしまうこともあると思うんですよね。
 それよりも「どうしてこの哲学が発生したのか」という「プロセス」の部分をもっと知った方がいいと思っていて、それらを見ていくと当時の社会状況とか通説とかより広い視野で捉えられると思います。例えば古代とか中世なんかは「神」の存在ありきで物事が考えられていたから、何かあると生贄を捧げて「神」の怒りを鎮めようとしていたとか。

 そういう「プロセス」をしっかり見ていくと、実は現代で起こっている事象に近い部分があるんじゃないか、もしかすると今後はこういう方向に進んでいくんじゃないか、なんてことにも考えを巡らすこともできるんじゃないかなー、と。


 本書には50の哲学が取り上げられています。まぁ、中にはよく分からないものもありましたが、「認知的不協和」「予告された報酬」「パノプティコン」「公正世界仮説」あたりなんかはなかなか興味深かったです。

 理解できていないものも多いので定期的に読み直したいなーとは思うんですけど、読み放題期間が終了したら読めなくなってしまうし、今のところ期間を更新する予定もないので買い直すのもありですかね。


 今回はこんな感じです。