kmpen148のいろいろ

日常生活の雑感を書き出しています。備忘録的役割。

【感想】『ファミリーデイズ』

読了:瀬尾まいこ『ファミリーデイズ』集英社文庫、2019年。
books.shueisha.co.jp


 私の好きな作家さんの1人である、瀬尾まいこ氏によるエッセイ本です。瀬尾氏のエッセイを読むのは2冊目で、その1冊目は『ありがとう、さようなら』(メディアファクトリー文庫)でした。こちらは瀬尾氏の教員時代の日常が綴られているのですが、読んだのが何年も前なので正直なところ全然覚えてないんですよね、これを機にパラパラと捲ってはみたのですがやっぱり全然。


 さて、本書には瀬尾氏の結婚、妊娠・出産、そして育児に関する日常が書かれています。普段瀬尾氏の文章は小説でしか味わっていなくて、私は瀬尾氏の言葉遣い、表現、文の流れ全てが好きで、なんか事細かに説明はできないのですが、一言で表すと「とにかく綺麗」です。
 以前、同じようなエッセイ本で川上未映子氏の『きみは赤ちゃん』を読みましたが、文体は全然異なり、こういう違いを味わえるのも読書の楽しさの1つです。
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 瀬尾氏はもともと妊娠するのが難しいと医者に言われていたそうです。

 私は数年前に子宮の手術を受け、その際に子どもは難しいだろうと言われていた。幼いころから、早く大きくなって子どもがほしい。思う存分子育てをしたいと夢見ていたぐらいの子ども好きな私は、医者に言い渡されてすぐさま保育士資格を取ることにした。自分の子どもが無理だとしても子どもと触れ合える機会はいたる所に転がっているのだと持ち前の楽観的な発想を発揮し、二年かけて資格を取得した。結婚してからは、子どもがいないならいないで優雅に暮らそう。子ども一人育てるのに一〇〇〇万円以上かかると聞くではないか。それを自分たちに使えるのだ。あちこち旅行しておいしいものを食べまくろうと、夫と話をしてはそれも楽しそうだと思うようになっていた。
 そうやって、そこそこ時間をかけ、わざわざ教員を辞め受験勉強までして変更した将来展望が、あっけなく崩れたのだ。

(「読めそうで読めない明日に未来」、51頁。)


 こうして第2の人生の方向性が決まりつつあったときに妊娠が発覚したということで喜びよりも驚きの方が多かったようです。
 そして、入院中の話、帝王切開の話など当時の様子や気持ちが非常にわかりやすく綴られておりますが、この辺についてはいわゆる序章的な扱いなのでしょうかね、ほぼ前半で終わっており、残りはお子さんとご主人との3人での生活が語られています。


 ついに、娘が歩きはじめた。ふらふらと前のめりに五、六歩進んでは、そのまま倒れこんでしまう姿は頼りなげでいじらしい。「おいでー」と両手を広げると、満面の笑みで一生懸命向かってくる様子ときたら、いとおしくて仕方なかった。
 これはビデオに残さなくては。天気の良い日に外で撮ろうと夫と話していたら、その週の土日は雨が降り、次の週末に延期することになった。
 ところが、翌週には娘は黙々と歩くようになってしまった。
「おいでー」と声をかけても、「あっどうも。急ぐんで」というぐあいににこりとするだけで、すぐさま自分の行きたい場所へと向かってしまう。外に出ようものなら、手をつないでおかないと、一目散に逃亡する。一昨日からはなぜか荷物を運ぶことにはまりだし、一・五リットルのペットボトルを両手で抱えふんふんと鼻息荒く歩いている。いじらしさなどどこかに消え、これではしっかり者の小さなおばちゃんのようだ。

(「今日も大いに拍手」、86頁。)


 ここを読んでいたとき、我が子も同じような過程があったことを思い出し、思わず笑ってしまいました。歩き始めた頃もそうですが、例えばそれよりも前の寝返りのときなんかも、最初は「う゛お゛ー!」みたいな奇声をあげながら横を向くまではできるのにそれ以上は返れなくて元に戻る、みたいなことを数日間繰り返していたのに、ある日突然クルッと寝返りしたかと思ったらもうそこからはひたすら寝返り、寝返り、そして寝返り。「あなた昨日まで泣きながら苦戦していませんでしたっけ?」みたいな感じでした。

 自分一人で立ち上がるのも同じように苦戦していたのに、一度でも立ち上がってしまえば「え、こんなこと前からできてましたけど?」みたいなドヤ顔で何度も立ち上がるし、終いにはコケて泣く……なんてこともありました。

 引用後段のペットボトルのエピソードなんて、そのまんま我が子にも当てはまっておりまして、500mlペットボトルを箱買いしたときに玄関に置いていたんですけど、ちょっと目を離していたら両手に1本ずつ持って居間のテーブルまで運んでいました。しっかりした運搬技術だったので注視しつつも放っておいたら、テーブルの上に10本近く並べられていたこともありましたね。


 他にも、子育てをしていく中で感じる不安や希望、お子さんの様子、幼稚園に通い出してからの出来事など、おそらく「あー、あるある」なんて思わず頷いてしまうエピソードがたくさんあると思います。それらがまた瀬尾氏らしい優しい、そして綺麗な文章で綴られています。


 娘との生活が始まってから、明日が二つやってくるようになった気がする。自分の明日と、自分のよりもたくさんの可能性と未来に満ちた娘の明日。自分以外の誰かの未来に手を触れることができるのは、どんな厄介ごとが付きまとったとしても、幸せなことだ。
 今日はすばらしい。でも、明日はもっとすばらしい。中学生も子どもも、いつだって私に、それを示してくれる。

(「明日はいつもすばらしい」、217頁。)


 緊急事態宣言が解除されたことで、一応保育園の休園も解除されたので我が子も保育園に通い出すようになり、私たち親の知らない場所で生活している時間も増えてきました。慣らし保育の時点でケロッとしていたので、保育園でも毎日楽しそうに過ごしているようです。

 こうしてちょっとずつでもできることが増えていく我が子の未来が明るいものであるようにと祈りつつも、それでも色々と不安はあるけれども、そういった部分も含めて自分以外の未来を気にしていることなんて人生で初めてのようなものです。これもまた幸せなことなんだろうなと思います。


 今回はこんな感じです。

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