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【感想】『後悔病棟』

読了:垣谷美雨『後悔病棟』小学館文庫、2017年。


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 33歳の医師・早坂ルミ子は末期のがん患者を診ているが、「患者の気持ちがわからない女医」というレッテルを貼られ、悩んでいる。ある日、ルミ子は病院の中庭で不思議な聴診器を拾う。その聴診器を胸に当てると、患者の心の"後悔"が聞こえてくるのだ。


 患者の気持ちが分かっていないと言われている主人公・早坂ルミ子(以下、ルミ子)が、ある時不思議な聴診器を拾い、患者の気持ちが聞こえてくるようになったことで寄り添うようになった……という、主人公の設定としてはよくある、ちょっと難ありな主人公がある日不思議な力を手に入れて無双するみたいな異世界物にありそうな感じです。
 聴診器を通して患者の気持ちを聞き取ることができ、さらには患者に過去をやり直させることができる(といっても、疑似体験ではありますが。)というファンタジー要素もある作品です。


 4章+エピローグの短編集であり、それぞれの章で出てくる患者は何かしらの「後悔」を持っています。彼らは、あの時こうしていれば……という思いを抱えているのですが、ルミ子はその不思議な聴診器でその気持ちを聞き取り、さらには彼らにその過去を「やり直す」よう疑似体験させてあげます。
 まぁ、ただ、この作品の良いところは、その疑似体験で別の道に進んだ過去が必ずしもハッピーエンドを迎えるのではなく、むしろ現在の方が良かったと思う展開もあったというところでしょうか。


 私自身、あの時もしも別の道を目指していたら……なんて考えることはありますけどね。でも、改めてどの時代からやり直したいか、って問われると正直なところ別にないかなーって感じです。

 例えばですけど、私は小学校から高校までずっとクラブチームや部活動として野球をしっかりした形でやってきたのですが、大学では一切やりませんでした。もともと自分の中で、「野球は高校まで」って決めていたこともあって割とスパッとやめることはできました。
 でも、やっぱりある程度長期間野球をやり続けていたこともあって、大学時代なんかは特に、試合での緊張感とかチャンスでタイムリーを打ったときの快感とかふと思い出すこともあったんですよね。そんな時とかは「あぁ、続けていればよかったのかなぁ…」って思いがよぎることもありましたけど、じゃあまた高校までのようにガチッとした感じで野球をやりたいかって考えると即答で「いいえ」でした。


 エピローグの章で部長が言っていた次の言葉は結構印象に残っています。

「二十代の君にはわからないかもしれないが、人間というものはね、歳を取れば取るほど、まだ死にたくない、もっと生きたいと願うようになるものなんだよ」


 確かになぁ……ってやけに実感してしまったというか、20代の頃はむしろこんな年まで生きてこられてよかった、今死んでも後悔はないかな?って割と真面目に思っていました。別に命の危険を感じたこととかは記憶にある限りでは無いのですが、なんでしょうか、自分自身がこうやって生きていること自体が奇跡のような漠然とした思いがありました。

 でも、こうして30代を境にして、結婚、そして子供が生まれるという人生の転換期を迎えたことによって、その考えは確かに変わりました。うーん、今までは自分自身のことだけ考えていればよかった命だったものが、家族が増えたことで自分だけの命ではなくなったというか……。自分のためってよりは、家族のために「まだまだ生きていかなくては」って気持ちが強くなっている気はします、この辺は上手く言語化できないんですけど、なんかこんな状態です、はい。


 作品としては「死」というテーマを扱ってはいるのだけれども、患者の「過去」に焦点を当てることで人間ドラマ的な部分が際立つように構成されているように思いました。また、患者の気持ちの描写なんかは一息にダダダーと吐き出されていて段落もなく書かれている箇所もあって、それがまた感情移入しやすくなっているかもしれません(逆にそれが読みにくいって人もいると思いますが。)。


 今回はこんな感じです。
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