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【感想】『春、戻る』

読了:瀬尾まいこ『春、戻る』集英社文庫、2017年。

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 ここ最近読書欲が湧かずに(なんか2月頃からずっと)、ちまちま読んでいたのがまた研究書に近いような教養書だったので全然捗っていませんでした。
 そんな中で気分転換に小説を読もうと思って手にしたのはやっぱり瀬尾まいこ氏の本で、本作も以前読んだことのあるものです。


 和菓子屋の山田さんとの結婚を控えた主人公・さくらの前に突然「兄」と名乗る年下の男の子が現れ、なんやかんやと接しているうちにその「兄」の正体が判明する……という内容になっていますが、まぁ、再読とはいえ全然覚えていませんでしたね。冒頭から「兄」と名乗る男の子(とは言っても24歳)が現れるんですけど、「あぁ、なんかそんな出だしの作品読んだことあったなぁ…」くらい。


 そんな「おにいさん」(主人公のさくらからすると本当の「兄」ではないけど、名前を教えてもらえないからこう呼んでいる。)は図々しくもあれやこれやと世話を焼いてくるわけですが、実際にこんなことがあったら、そりゃまぁ即通報案件でしょう。

 それでは物語が終わってしまうので、本作ではさくらが初めのうちはめんどくさがりながらも、次第に「おにいさん」を受け入れていっています。

 さらに、「おにいさん」はさくらの前だけでなく、婚約者である山田さんの前にも現れます。しかし、山田さんは怪しむどころかさも当然のように受け入れます。


 話が進み、習慣的にさくらたちの前に現れていた「おにいさん」がある時急に姿を見せなくなり、さくらと山田さんは「おにいさん」を探しに行きます。その中で次のような会話があります。

「いや、落ち着いて考えれば、おかしいですよね。お兄さん、ずいぶん幼く見えるから、どう見てもさくらさんの兄なんかには見えないのに。あまりにもしっくりとさくらさんの横にいるから、違和感がなくて」
 山田さんはまだ笑っている。
「しっくり?」
「そうです。自然にさくらさんの世話を焼いていたから、お兄さんを親戚か何かだろうと勝手に思い込んでました。ほら、家族とかきょうだいっていろんなパターンがありそうですし」


 これなんですよね、瀬尾まいこ氏の作品の根幹にあるものって。「家族」をテーマに扱っている作品が多いんですけど、どれも世間で言われている「普通の家族」ではないんです。でも、登場人物たちには自然と受け入れられていて、「こんな家族だっていいよね」って思えるようなものばかりです。


 余談ですが、特に印象に残っているのは冒頭が衝撃的すぎる『幸福な食卓』でしょうか。この作品の感想は以前書いております。
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 そんな「おにいさん」の正体を解く鍵は、さくらの過去にあります。彼女は昔、1年間だけ岡山で小学校の教師をしていましたが、本人にとっては辛い過去だったため蓋をしていました。しかし、「おにいさん」と接していく中で、彼がその過去に関わっているということを徐々に気付き始めます。

 私にも自分がどうあればいいのかわからずあがいていた時がある。小学校で働いていた時の私は、期待に応じようと苦悩していたおにいさんと同じように、何をやってもうまくいかずにひたすらもがいていた。壁を破るすべは最後まで見つからず、解決できないままに終えるしかなかった。おにいさんはきっとあの日々とつながっている。あのころの記憶を開ければ、おにいさんのことがわかるはずだ。それはわかっているのに、できなかった。もうそこまで来ているのに、私の記憶はなぞられるのを拒んでいる。ふたをしたまま十三年も経ったのだ。せっかく薄れてきた記憶を、再び鮮やかにはしたくなかった。おにいさんが自分の居場所と離れて楽になったように、私も扉を閉めることで自責や後悔を切り離すことができたのだ。


 最終的には「おにいさん」が誰なのか、さくらが蓋をした過去とどう向き合ったのか……が描かれています。これらはぜひご一読ください、ということにしておきましょう。


 今回はこんな感じです。

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