最近急激に寒くなってきましたね。秋を通り越して早々に冬になってしまいそうです。
さて、最近久々に好きなマンガを読み返して、「あぁ、やっぱりこのマンガは好きだなぁ」と再確認したので、そのことについて書いてみたいと思います。
まず、そのマンガとは?ということですが、タイトルにもあるように、
竹葉久美子『やさしいセカイのつくりかた』1〜6巻、アスキー・メディアワークス。
です。
すでに完結している作品で、1巻が2011年、最終巻(6巻)が2015年とちょっと前の作品ではあるのですが、今読み返しても全然色あせていません。背表紙は色あせて薄くなっていましたが。
いや、もう本当にこの作品が大好きなんですね。
私の中でマンガTOP3的なものがありまして、そのうちの1つです。
1巻ごとの感想というよりはいくつかの印象的な場面を取り上げながら自分の考えも述べつつ…みたいな流れにしようと思っています。ネタバレたっぷりですが、ご了承ください。
その前に、主要人物紹介と作品概要だけ先に書いておきます。
【主要人物紹介】※一部、私の主観が入っております。
- 朝永悠
本作品の形式上の主人公。いわゆる天才児(ギフテッド)。19歳。物理学の研究者であったが、アメリカでの研究プロジェクトが資金難で続行困難となり、日本へ帰国。昔の恩師の紹介で女子高の教師として働きながら、自身の研究を再開する道を探っている。
- 広瀬葵
本作品の実質的な主人公。成績は並みだが、実は朝永と同様に「ギフテッド」であり、それを隠している。昔、母親からそのことを拒絶されたことがトラウマになっており、それを隠して生活していたが、朝永と出会い、徐々に考えが変わっていく。とにかくかわいい。
- 草壁ハルカ
あることから男性教師に不信感を抱いていたため、朝永に対しても最初は攻撃的であった。しかし、アルバイトがバレて退学の危機になった際、朝永に救ってもらってからは一気に恋心を抱くようになる。とにかく朝永が大好きで純粋な女の子。
- 遠野冬子
家庭の事情により外泊が多く、男性との付き合いも豊富。トラブルになりかけたところを小野田礼司(朝永の恩師であり、先輩教師)に救われたことをきっかけに、とにかく小野田大好き。積極的。
- 大川香代
メイド喫茶でバイトし、コミフェスに命を懸ける腐女子。葵、ハルカ、冬子の3人の良き理解者。1話分だけ自身の恋愛話の描写がある。
【作品概要】
アメリカでの研究プロジェクトが続行困難となり、日本に帰国した朝永悠が、かつての恩師である小野田礼司の紹介で広瀬葵や草壁ハルカが在籍する女子高に着任し、彼女たちと一緒に悩みながら成長していく物語。
ざっくりとこんな感じです。
【作品概要】の「彼女たちと一緒に悩みながら成長していく」という一言に6巻分の内容を詰め込みました。
本作品は朝永悠を主人公として、周りの登場人物にも焦点を当てながら彼女たちの成長も描く作品になっており、本当に綺麗に、綺麗に紡がれています。
そういう意味では6巻という長さはちょうどよかったのではないでしょうか。
ところで、【主要人物紹介】で朝永悠を「形式上の主人公」、広瀬葵を「実質的な主人公」と書きましたが、私は本作品の真の主人公は広瀬葵で、彼女の成長物語だと思っています。
おそらくこれは読者が「朝永×葵」と「朝永×ハルカ」のどちらを軸として本作品を読むかによって変わってくると思うのですが、私は初めて読んだ頃からとにかく広瀬葵推しでした。
まぁ、その贔屓目を抜きにしても、本編では葵の心情描写が多いんですね。
物語の序盤で葵が「ギフテッド」であることを朝永が知ってしまうわけですが、葵は朝永にそのことを隠しておいてほしいと懇願しています。
そもそも隠したい理由としては、母親に拒絶されたことが原因なのですが、それに関わる心情として、
体が大きくなるに連れ 解ったことがあった
ひとつは この世界は周囲が作り上げた尺度からはみだすものをとても嫌うこともうひとつは 大抵の人間は自分の常識の範囲で起こる事象しか真実だとは認識できないことだ
(2巻、73-74ページ)
※改行やスペースは私の判断で行っています。以降も同じ。
これね、頭では分かっていても、いざ自分の中にある「常識」の範囲外のことに出会ってしまうとどうしても認められなかったり、拒んだりってことはよくあることだと思います。
私も素直に認められる自信はありません。
この後、朝永の元にアメリカでの友人(レオン・バークレイ)が来て、葵はちょっとした皮肉を言われてしまいます。
ただ、それによって葵の閉じ込められていた感情が徐々に顔を出し始めます。
人と違うということが怖くて
必死にみんなと同じモノになろうとしたでも わかってたのにね
そんなことじゃもうこの気持ちは抑えつけられないいつの頃からか私の中で一匹の獣が生まれて
いつだって「私(カラ)」を喰いやぶろうとしている
(2巻、107-108ページ)
この場面、私の1番好きな場面なのですが、マンガで見るとゾクッとしますよ、本当に。
「いつの頃からか」と言っているので、おそらく前々から「ギフテッド」を打ち明け、そちらの方向へ進みたいという考えは当然あったのだと思います。
しかし、母親から拒絶されていることや友人との関係を考えると踏み出せない気持ちの方が強く、ずっと抑え込んできたのでしょう。
そんな気持ちが行ったり来たりしている中で、自分と同じ「ギフテッド」で、それを隠すことなく生活しており、しかも自分の興味ある分野を研究している朝永と出会えたことで、「ギフテッド」への気持ちが一気に加速した瞬間です。
とは言っても、今までずっと隠してきたこともあるので本当にどうするかは葛藤が続いていくわけですが、そんな葛藤と戦っているかのような一場面があります。
4巻でのことなのですが、冬子が小野田先生の家に押しかけて泊まっているということを知り、葵から冬子へ電話をかけた場面です。
天からクモの糸が垂れてきてるのに それを払いのけるなんて
あたしは絶対に許さないからね!!このままじゃ冬子が小野田先生の人生を壊しかねないんだよ?
本当に幸せになりたかったら自分ひとりだけじゃダメごめんね
あたしも自分のことで手一杯で何もしてあげられなくて…
あたしたちって本当無力で嫌になるよ
――だけど
お願い あたしのためにも逃げないで
(4巻、66ページ)
実際にそういう意図で書かれたのかは分かりませんが、葵自身の葛藤とも重なっているように見えました。
「クモの糸」とはまさに朝永のこと。それを掴むかどうかを葵自身もまだ迷っている中で、払いのけることは「絶対に許さない」と冬子に言いつつも自分自身にも言っているのでしょう。
最後の「あたしのためにも逃げないで」……。
胸がこう…グッとなりますね。葵に感情移入しすぎでしょうか。
葵と冬子は中学時代からの親友で、だからこそぶつけることのできた言葉でもあるのでしょう。
まぁ、若干八つ当たりっちゃ八つ当たりでもあるので、冬子としても自分への忠告と分かっていながらも腑に落ちない部分もありそうな雰囲気でした。
また、4巻の最後にはちょっとした入れ違いで、「ギフテッド」だということがハルカにバレてしまうのですが、ハルカはむしろ羨ましい、と。
ああ そうだ 本当はずっと待っていた
信じる誰かに許されることを
そのままの自分でいいのだと
私はここにいていいのだと
(5巻、14-16ページ)
ハルカからしたら、「え、そんなこと?」的な受け止め方だったため、言ってしまえば葵の取越苦労みたいな感じになりましたが、いや、しょうがないですよね。
仮に自分が周りと違う性質を持っていたとして、それを何の躊躇もなしには言えないと思います。ましてや、葵は幼少期のトラウマもありますし。
なんか、ここまで広瀬葵のことだけで長々と書き過ぎた(引用多めですが…)ので、最後はざっくりとまとめておきます。
最終的には親も説得し、葵は「ギフテッド」として本当に目指したい世界へ一歩を踏み出していくことになります。
ここも葵の心情描写があるので、6巻から3つほど。
ハルカちゃんだけじゃない
冬子もみんな少しずつ変わっていって
こうして一歩ずつみんな大人になっていくんだろう私は未だ早過ぎるスタートにとまどったまま
いや 本当はもう自分が欲しいものが何かは知っている自分さえ偽り続けたこの世界での
たったひとつのほんとうの真実の答え
それはきっと あの子たちを あの人たちを
傷つけてしまうかもしれないそれでも私が垣間見た美しい世界がどこまでも輝いて見えたから
(6巻、30-32ページ)
今 抱えてる不安とか悩み事なんかは
あと何年もしたらつまらないことで
バカみたいだったと笑い話にできるかもしれないけれど 17歳の私にとってそれは世界を構築してる全てで
その殻の外を望んだ先に重ねた嘘が跳ね返ってくることは理解していた傷つくのも傷つけるのも今でも怖い
それでももうざわめく声に立ち止まったりしない
私はこの先の世界を選んだのだから
(6巻、129-130ページ)
こうして立ちすくむ両足を奮い立たせ
這い出した繭の外はお世辞にもやさしい世界とは言えないけれど
それでも私は まだ見ぬ荒野へ光を求め続ける
(6巻、157-159ページ)
なんかね、最初からずっと広瀬葵を中心として読んでいたので、ここまで来るともう「あぁ、本当によかった……」の一言しか出ませんでした。今改めて読んでもそう思います。
いやー、書き過ぎた…。
作品の感想というよりは、ただただ全力で広瀬葵の感想になってしまいました。
もちろん他の人物に関しても印象的な場面はあるので、それはまた別の機会に持ち越したいと思います。
今回はここまでにしておきます。