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【感想】『ファクトフルネス 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』

読了:ハンス・ロスリングほか/上杉周作ほか訳『ファクトフルネス 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』日経BP社、2019年。


 私が読んでいるブログやウェブ記事で一時期、結構な確率で取り上げられていた本書、やっと読みました。いやー、これはね、私の中では名著だったと思います。


 本書の冒頭では自分自身が世界をどのように認識しているかを確認できる13個の質問が用意されています。その一例は次のものです。

質問1 現在、低所得国に暮らす女子の何割が、初等教育を修了するでしょう?




A 20%
B 40%
C 60%

質問3 世界の人口のうち、極度の貧困にある人の割合は、過去20年でどう変わったでしょう?




A 約2倍になった
B あまり変わっていない
C 半分になった

質問9 世界中の1歳児の中で、なんらかの病気に対して予防接種を受けている子供はどのくらいいるでしょう?




A 20%
B 50%
C 80%


 正確なデータを持っていればこんな質問どうってことないんでしょうけど、私は持ち合わせていなかったので自分の中にある「イメージ」で答えてみました。………見事に13問中3問しか正解を選べませんでした。でも、この状態が逆に「正しい」ようで、知識人の集まりで同じ質問をしても正答率は非常に低いそうです。

 このクイズは、さまざまな国の、さまざまな分野で活躍する人々に実施してきた。医学生、教師、大学教授、著名な科学者、投資銀行のエリート、多国籍企業の役員、ジャーナリスト、活動家、そして政界のトップまで。間違いなく、高学歴で国際問題に興味がある人たちだ。しかし、このグループでさえも、大多数がほとんどの質問に間違っていた。一般人の平均スコアを下回り、とんでもなく低い点数をとったノーベル賞受賞者や医療研究者もいた。優秀な人たちでさえ、世界のことを何も知らないようだ。
 何も知らないというより、みんなが同じ勘違いをしているといったほうが近いかもしれない。世界について本当に何も知らなければ、クイズの正解率は、当てずっぽうに答えた場合と近くなるはず。しかし実際の正解率は、それよりずっと低い。


 本書では「チンパンジー」よりも正答率が悪いと表現されていますが、まぁ、要は人々が世界についていかに間違ったイメージを持っているかということで、著者はなぜそのような状態なのか、それらを改めるにはどうしたらよいかについて自らの経験談を交えながら述べています。その核となっているのが副題にもあるように、「10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る」という考えです。

 その10の思い込みが「分断本能」「ネガティブ本能」「直線本能」「恐怖本能」「過大視本能」「パターン化本能」「宿命本能」「単純化本能」「犯人捜し本能」「焦り本能」なんですけど、字面だけでも何となく想像つくものもあると思います。具体的な事例、解説はぜひご一読いただければなーと思います。


 なんでしょうね、今このタイミングで読んだからでしょうか、本当に概ね首肯せざるを得なかったんですよね。元々、大学・大学院時代の教授に口酸っぱく指導されていたおかげもあって、私としては良く言えば「批判的に」物事を見るように心掛けているつもりではあるんですよ。
 特にメディアに対してなんですけど、ニュースを例にとっても、明るい話題って少ないじゃないですか。10個のニュースがあったとして8個くらいは殺人事件がー、強盗事件がー、ミサイル発射だーみたいに暗くて人々を不安にさせるようなものばかりで、ほんのたまに小動物のちょっとおまぬけな癒やし動画が流れるだけでまたすぐに事件だー、の繰り返しで、でも実はそういうのって少数であって、ただ単に過大表現されているだけでしょ?的な感じで見ていました。

 戦争、飢饉、自然災害、失政、腐敗、予算削減、難病、大規模リストラ、テロ事件。世界はいつだって悪いニュースのオンパレードだ。反対に、ゆっくりとした進歩は、どれほど大規模であっても、何百万という人に影響を与えたとしても、新聞の一面に載ることはない。もしも記者が「航空機、無事着陸」「農作物の収穫、また成功」といった記事を書こうものなら、すぐに会社をクビになるだろう。
 報道がより自由になり、技術が進歩するにつれ、悪いニュースは以前にも増してすぐに広まるようになった。数世紀前、ヨーロッパからやって来た開拓者がアメリカ先住民を虐殺したことは、ヨーロッパ本土ではニュースにならなかった。計画経済の失敗により、中国の農村部で大規模な飢餓が起きたことを、赤旗を掲げたヨーロッパの若い共産党員は知らなかった。動物が絶滅しても、生態系が壊されても、昔は誰も気に留めなかった。
 暮らしが良くなるにつれ、悪事や災いに対する監視の目も厳しくなった。昔に比べたら大きな進歩だ。しかし監視の目が厳しくなったことで、悪いニュースがより目につくようになり、皮肉なことに「世界は全然進歩していない」と思う人が増えてしまった。

 たとえば、以下のような見出しのニュース記事を書こうものなら、すぐにボツにされるだろう。
マラリアの感染数、依然として減少」
「今日のロンドンの穏やかな天気を、気象学者がきのう正確に予測」
 一方で、地震・戦争・難民・病気・火事・洪水・サメによる被害・テロなどは、関心フィルターを通り抜けやすい。めったに起きないことのほうが、頻繁に起きることよりもニュースになりやすいからだ。こうしてわたしたちの頭の中は、めったに起きないことの情報で埋めつくされていく。注意しないと、実際にはめったに起きないことが、世界ではしょっちゅう起きていると錯覚してしまう。


 でも、自分の中では「批判的に」見てきたつもりだったけど、冒頭の質問には3問しか正解できなかったってことは十分にそういったものの影響を受けてしまっているということで、それが結構ショックでした。頭の中では「テレビはあんまり信用していない」なんて思っていても、家に帰るとなんだかんだテレビをつけてニュースを見ているから無意識のうちに影響を受けてしまっているんだろうな……と。


 現在、こんな世の中になってしまい(内容を書かなくても「こんな」という指示語だけで通じてしまうでしょう)人々は先の見えぬ不安に溢れているせいか、結構前述の「本能」が遺憾なく発揮されてしまう状況だと思うんですよね。

 「ネガティブ本能」によって状況はどんどん悪くなっているという考えが強くなり、「犯人捜し本能」によってここまで感染者が拡大した「犯人」を名指しし、「焦り本能」によって買い占めが起こる……。そしてさらにそれらを煽るかのようにニュースでは毎日毎日関連情報、特に「悪化した」面を報道し、ワイドショーでは「知識人」として招かれたゲストたちが政府を好き勝手に批判しています。

 Twitterなんかはもっとひどいんじゃないですかね。コロナ情報を浴び過ぎて嫌気が差してからは距離を置いてもう全然見ていないのですが、それまではなかなかにひどかったと思います。勝手な憶測が飛び交い、叩き合いが行われ(中にはいんふるえんさーが先導していることも)、過激な政府批判なんかも行われていました。

 今回の状況はさておき、Twitterに関してもファクトフルネスの枠組みで考えたら人々に莫大な利益をもたらしていると思うんですよ。なにかと炎上やらデマやらが話題になりがちだし、「犯人捜し本能」によってそういった類のツイートが注目されてしまうけれど、実際にはそれ以上にTwitterによって利益がもたらされた人や企業もいるはずです。Twitterで仕事が増えたとか結婚したとか…そういういわゆる「ほっこり」系の話ってあんまり求められていないんですかね、メシウマではないですもんね。

 
 あっちこっちに話が飛んでしまいましたが、本書を読んだことで普段の自分の「モノの見方」に対するスタンスは決して間違っていなかったんだなーと思うことができました。そういう意味でも「ファクトフルネス」という考え方には賛成ですし、定期的に読み返していきたいところではあります。
 ただまぁ、ファクトフルネスの枠組みで考えると本書だけが全てではないということも言うことができますし、自分自身で様々な視点から「知識のアップデート」が必要にはなってきます。この知識なり情報なりをどこから仕入れるかっていうのもまた難しい問題ではあるんですけどね、それはまた別の話ですかね。


 今回はこんな感じです。